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「経済学」ってなんだろう?

私たちの生活は、モノの値段やアルバイトの時給、ニュースで見かける景気や物価の話題など、経済と切り離せません。
なぜモノの値段が上がったり下がったりするのか、なぜ国の政策によって仕事や暮らしが影響を受けるのか
――そんな身近な「なぜ?」を考えるとき、経済学が役立ちます。
経済学は、数字や理論だけではなく、人々の行動や社会の仕組みを読み解くための学問。
将来の仕事や社会に向き合う力を養う、大きなヒントになるのです。

物価が上がるのは悪いこと?
鎖国の終わりには転売ヤーが殺到!?
日本が途上国支援を行うのはなぜ?
コロナ禍の自粛規制は正しかった!?
デジタル技術の時代に日本のものづくりはなぜ勝てない?
政府の経済政策の愛、逆効果の場合も!?
《テーマ》

物価が上がるのは悪いこと?

モノの値段が上がると消費者は不満に思い、逆に値下げされて安く買えるととうれしくなるものです。しかし、売り手としては、値下げが続くと売上高が減り、従業員の給料や雇用が不安定になる恐れがあります。従業員は消費者でもあるため、給料が減れば買い物を控えるようになります。こういう状況が日本全体で起こると経済が停滞してしまうのです。つまり、「安い=良い、値上げ=悪い」と単純に考えてしまいがちですが、社会全体で見ると、そうとは言い切れないということです。

『良い物価上昇、悪い物価上昇』

物価上昇には『良い物価上昇』と『悪い物価上昇』があります。前者はよく売れることでモノが不足し、企業が値上げしても買い手がいる状態です。企業は工場を増やし従業員を雇い、給料も上げるため、消費がさらに広がるという好循環につながります。後者は、原材料費の高騰などで値上げが起こっている状態です。買い手の給料は増えないまま家計の負担が重くなり、企業も生産を縮小、景気は冷え込んでしまいます。現在起きているのが良い物価上昇なのか、悪い物価上昇なのか、身近な価格の変化から意識してみるのも良いでしょう。国全体の物価の動きをつかむため、「物価指数」という統計があり、物価動向を視覚化したデータも公表されています。

《テーマ》

鎖国の終わりには転売ヤーが殺到!?

歴史の授業で習う「鎖国」。江戸幕府はキリスト教の広まりを防ぐためにこの政策をとりました。その結果、自給自足のための農地開発や綿・絹の生産が拡大し、国内の経済は比較的安定して成長します。
ところが200年以上続いた鎖国が1858年に終わると、日本経済は大きな転換点を迎えました。輸出の中心となった絹糸は海外需要が急増する一方、国内では供給不足で価格が高騰。さらに、イギリスからは安価な機械製の綿製品が流入し、日本の手工業は衰退の危機に直面します。長きにわたる閉鎖経済から急に開放経済となり、外国との貿易が始まったことで、日本経済は大いに混乱してしまったのです。

『情報の非対称性』

開国後に起こった出来事を経済学の視点から見てみましょう。
鎖国を続けてきた日本は外国の市況や商品の相場に関する知識が乏しいままだったのに対し、外国の商人は国際的なモノの価格に精通していたため、情報格差が生まれました。たとえば金は国際的に高級品でしたが、それを知らない日本の商人は、外国人にとっては安価な国内相場価格で大量に銀と交換し、その結果、国内で品不足と物価高を招いてしまったのです。
このような情報格差を、経済学では『情報の非対称性(同じ情報が共有されていない)』と言います。鎖国からの急な開国が、情報格差を通じて経済的な混乱を引き起こしたということが分かります。

《テーマ》

日本が途上国支援を行うのはなぜ?

日本は政府開発援助(ODA)などを通じて途上国の環境や生活改善に協力しており、2023年では米、独に次ぐ世界第3位の援助国です。自分たちの国にも少子高齢化や財政悪化などの課題が山積みなのに、なぜ他国に協力するのかと思うかもしれませんね。実は、私たちの身の回りの洋服や食品、日用品の多くが途上国で生産されており、途上国での工業生産なくして日本の生活は成り立ちません。私たちの消費の結果として工場のゴミ問題が起きているのであれば、私たちが間接的に途上国の環境を悪化させていると言えるでしょう。途上国の問題は決して遠い国の出来事ではないのです。

『開発経済学、環境経済学』

途上国が抱える課題はゴミ問題のほかにも多岐にわたります。貧困や飢餓、失業、教育水準の低さといった社会経済的な問題に加え、森林破壊、公害、都市問題、地球温暖化など環境面の問題も深刻です。複雑な課題に向き合うため、『開発経済学』は経済的・社会的側面を分析し、解決策を模索します。
『環境経済学』の研究ではゴミ収集の有料化は廃棄量削減に効果があるとし、先進国では成果が確認されています。しかし、途上国では同じ制度を導入しても必ずしも効果が上がりません。不法投棄や不適切処理、監視体制の不備など、制度だけでは解決できない要因が残るためです。したがって、経済的手法に加え、法規制の強化や現地の実情に適したリサイクル施設の整備など、包括的な対策が求められます。経済学・法学・工学といった多分野の知見を結集した国際協力は、今後さらに重要となるでしょう。

《テーマ》

コロナ禍の自粛規制は正しかった!?

2020年春、新型コロナが急速に広がる中、日本政府は飲食店に対して営業自粛要請を出しました。国民の命と健康を守るために避けられない決断でしたが、飲食店の経営者や労働者には大きな経済的被害が生じました。未知の状況の中で自由な経済活動を優先するのか安全を優先するのか国民の中でも意見が分かれ、混乱が起きたのは記憶に新しいでしょう。もし政策の妥当性を事前に測る手立てがあれば、国民は納得して協力できたかもしれませんね。

『自然実験』

ある施策の効果を客観的に測る手法として、一部のグループに処置を実施し、実施しなかったグループと結果を比較するRCT(ランダム化比較対照実験)という手法があります。経済政策の実験は倫理的な観点や経済現象の複雑さなどから実施が困難だと言われてきました。しかし、実社会に自然に起こった現象の原因と結果を観察する『自然実験』をRCTの代替として活用することができます。例えばコロナ禍の際にデンマークは厳しいロックダウンを行い、スウェーデンは国民の自主性に任せる緩やかな対策を実施しました。対照的な政策をとった両国ですが、驚くことに経済成長率に差はなく、政府の介入はほとんど結果に影響しないことが分かったのです。
もちろん、ある地域で得られた結果が他の地域でも得られるとは限りません。それでも人間は新しい手法を探り、新たな知見を生み出していくに違いありません。

《テーマ》

デジタル技術の時代に日本のものづくりはなぜ勝てない?

『規模の経済、産業集積』

かつて日本企業は、ブラウン管テレビやウォークマン、ガラケーといった身近な家電製品で世界をリードしていました。しかし1990年代以降、技術のデジタル化が進み、複雑な部品の多くがソフトウェアや半導体に置き換わるようになり、現在ではスマホやPCの市場では、海外製品が主役となっています。
では、なぜ追いつけないのでしょうか。その理由を解くヒントは経済学にあります。たとえば、スマホに使われる半導体。最先端の工場や研究には年間で数兆円の投資が必要となるため、たくさんのチップを作れば作るほど1枚あたりのコストが安くなる『規模の経済(大量生産によってコストが下がる仕組み)』が働きます。これが、世界の巨大企業との差を埋められない一因となっているのです。

また、経済学は国や地域の強みにも注目します。アメリカのシリコンバレーには世界中から優秀な人材が集まり、大学と企業が連携することで、iPhoneや自動運転システムなど、世界の最先端の製品やサービスを次々に生み出しています。こうした『産業集積(同じ分野の企業や人材が集まること)』を日本でどう作れるのか―これも経済学の大切なテーマです。

日本経済を立て直すには、企業の努力だけでなく国全体の戦略が欠かせません。経済学部では、日本経済の課題を考え、新しい社会を築くための視点と論理的な思考力を身につけることができます。未来の社会をどう築くかを考える、経済学はそのための強力な道具なのです。

《テーマ》

政府の経済政策の愛、逆効果の場合も!?

『マクロ経済、金融学』

経済政策では、政府が需要をつくり出すケースが多く見られます。しかし、政府の「愛」が逆効果になることも考えなければなりません。

『マクロ経済』と『金融学』を融合して考えてみましょう。マネーは民間銀行と中央銀行のしくみの中で創り出されるものであり、政府そのものがマネーを直接生み出すわけではありません。政府と銀行システムを分けておくのは、人類の知恵の一つなのです。

政府が公共支出を行う場合、税収で足りない分は国債を発行してまかないます。ところが、政府が需要を増やそうとして国債を出しすぎると、国債の価格が下がり、長期金利が上がってしまいます。例えば、91万円で買った国債が1年後に100万円で戻ってきたとすると、9万円(約10%)の利益になります。しかし、もし人気がなくなって国債の価格が83万円まで下がると、17万円(約20%)の利益になります。この利益の割合は利回りと言い、利回りが上がると金利も上昇するのです。結果として企業の借入金利や個人の住宅ローンの金利も上がり、予定していた投資や住宅購入ができなくなるケースが出てしまうのです。

このように、良かれと思って政府が借金を増やすと、かえって民間に負担をかけてしまいます。経済政策を考えるときは、金融市場のしくみを理解していなければ、本末転倒になってしまいます。また「金利は低い方がよい」と単純に決めつけてしまうのも危険です。金利が低ければ借りる側には有利ですが、貸す側には不利です。金利が低いままだと、本来なら退場すべき生産性の低い企業が生き残り、社会全体の効率が下がってしまいます。早めに体質改善をして、新しいビジネスモデルに移る方が経済を強くする場合もあるのです。

本当の「愛」や「優しさ」とは何か。『マクロ経済』と『金融学』を合わせて考えてみると、社会の動きを見通す力が身につくでしょう。

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